映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に学ぶ、想いの伝え方
「ちょっといいか」
父が突然、話しかけてきた。
「今、話題の映画『ゴジラ』を観にいかないか?」
「喜んで」
居酒屋のような、返事を返してしまった。
映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は、元々観にいこうと思っていた作品だった。知人の映画狂に感想を聞いたら「ストーリー普通、CGはいい、音楽最高」という、なんの参考にもならないコメントが返ってきた。重ねて尋ねても、コントラバスがいいとか、オーケストラを使っているとか、ストーリーについての話題が0である。ただ、つまらないとは言わなかったので安心はしている。ダメな時は、10分ぐらい酷評を聞かされるからだ。
映画館に行ったら、チケット売り場のお姉さんに劇場を選んでと言われた。3Dにするか、音響360°するか悩んだが、映画狂に「もっといい劇場で素晴らしい音を堪能した」と自慢するために音がいい場所を選んだ。この選択が、後に正解だったと思い知ることになる。そんなことに気づくことなく、ただただ開始を待ち望んだ。
音が身体を揺らす。
映像の迫力が2倍増だ。
無音と爆音の組み合わせが、絶妙すぎる。
心臓にペースメーカーが入っている父と来たのを、ちょっと後悔するほど迫力大な作品だった。怖さも、気持ち悪さも、美しさも理想通りのモンスターだった。これだけでも、足を運んだ価値がある。だが、最も惹かれたのはそこではない。人とモンスターとの、意思疎通の見事さだ。
人と人がお互いの主張をぶつけ合い、言葉が通じるのにまったく理解しあえてないのに比べて、人とモンスターは敵味方関係なく、見事にお互いの意思を理解し合っていた。「言葉は必要なのだろうか?」と疑問に感じるほど、まったく壁が無かった。交流の真髄が、見事に表現されていた。
まずは“オルカ”という機械の使い方だ。モンスターの鳴き声を分析し、周波数を調整した音を発信することで、意思を伝えていた。こちらを、先に理解してもらうのではない。まずモンスターのことを分析し、理解してから相手にわかるように返事をする。ビジネス書『7つの習慣』に書かれていた“理解してから、理解される”という人間関係の基本が、はっきり描かれていた。
次に目を見張ったのが、モンスターの表情としぐさだ。目の色、口の開き方だけでなく、手の動きから、全身でモンスターの感情が表現されていた。笑顔や手を広げるしぐさが、相手への歓迎の感情を現すようだった。映画『ゴジラ』を観た人すべてが勘違いする余地が0だと感じるほど、すべての動作が感情と一致していた。表情とジェスチャーの威力を、思い知らされた。
とどめはモンスターと多くの戦闘機が、共に登場するシーンだ。複数回あるが、その結果はバラバラだ。敵としてモンスターに戦闘機がたたき落とされるシーンもあれば、味方としていっしょに戦うシーンもある。違いがでるのは、戦闘機側の行動だ。モンスターを攻撃すれば、戦闘機も攻撃される。モンスターの目的に沿う動きをすれば、モンスターも戦闘機が動きやすい活躍をする。行動する姿は、言葉を尽くすよりも有効である。モンスターと交流する機械“オルカ”は、もはや必要がなかった。
人と人が交流するスキルを上げる場合、多くの人が話し方を研究する。声の聞き取りやすさや、言葉づかい、内容の伝え方など、言葉を中心にスキルを高めようとする。確かに、それは大事だ。だが、本当に大事なものは別である。テクニックだけあげても、効果があるのは短期的で、長期的な深い交流にはつながらない。
相手を理解しようとする姿勢、全身に現れるほどの意思、言葉と矛盾しない行動、これらが揃わなければ真の交流は生まれない。言葉はあくまでツールである。重視すべきは、心と行動だと映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に教えられた。たぶん3Dの劇場で楽しんだら、映像のすごさに飲まれて気づかなかっただろう。音の素晴らしさを全力プッシュしてくれた、映画狂の友人に感謝である。
いつも映画は多くのことを、教えてくれる。寿司だと思って食べてみたら、絶品のケーキだった驚きを味わった。そんな風に期待とは違った、予想外の学びを与えてくれる。これだから、映画鑑賞はやめられない。
私の映画館通いが終わる日は、いつまでたっても訪れないだろう。
ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(オリジナル・サウンドトラック)
- アーティスト: ベアー・マクレアリー
- 出版社/メーカー: ADA
- 発売日: 2019/05/31
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