軽減税率で、駄菓子が消える
「どうか力を貸してください」
いつもは穏やかな表情がゆがんでいた。ひとつの日本文化が消えようとしている、何とかしたいという熱意が火にあぶられたように伝わってきた。
100円で何個か買える、そんなお菓子文化は世界でも珍しい。元々お菓子は、貴族や富裕層だけの楽しみだった。お菓子は高いもの、そんなイメージが今でも残っている。それを打ち破る『駄菓子』は日本ならではのものであり、一つの文化である。駄菓子文化を楽しみに、来日する海外の人たちもいる。それなのに軽減税率8%と10%の紛らわしさ、これが駄菓子の生産者に大打撃を与えようとしている。
お菓子の税率は、予定では8%である。問題はおまけつきの駄菓子だ。食べた後も使えるケースやおもちゃが付いている場合、一体資産という扱いになる。この一体資産扱いにされた駄菓子の税率が10%になるのだ。
なんでこんなことになったのか、財務省や国税省のHPによると「高額商品に食品を付けることで8%扱いにする、課税逃れを防ぐため」起こりそうな問題を対処された点はすばらしい。だが、駄菓子業界にすればたまったものではない。
2019年6月下旬に小売店に聞き込みをした結果はどうだったか、語る駄菓子会社の代表Aさんの表情は悲壮だった。税率10%になる新商品を扱わない、そう感じさせる回答が70%、一切の取り扱いをやめようとする回答すら10%もあった。
「体に悪いものを使っている、駄菓子なんか無くなっても構わない」そんな感想を持つ人がいるかもしれない。私はきついアトピーである。子供の頃は、おいしそうにみんなが食べる駄菓子を「うらやましい」と涙目で見つめていた。私にとって、駄菓子は宝石のようにキラキラ輝いて見えた。軽減税率の話題の合間に、要望を伝えてみた。「アレルギー持ちの人間でも、安心して食べられる駄菓子を作ってほしい」その応えは、予想を超えていた。
「子供たちが安心して食べられるように、限られた予算の中で最大限に安全な素材を使っていますよ」
すべての駄菓子の生産者が、気を配っている。それは、さすがにないだろう。だが子供たちの為に利益を削ってでも、より安全なものを届けようと努力されている企業がある。それを知っただけでも、いちアレルギー患者としては嬉しかった。
駄菓子会社の代表Aさんは、ある言葉を繰り返していた。
「駄菓子の文化を守りたい」
駄菓子会社の代表Aさんは、とても子供好きな方だ。生産工場に、子供たちを迎えるだけではない。小学校にも足を運び、特別授業を受け持つこともある。子供たちの話をするAさんの表情は、駄菓子以上に多彩で眩しい。子供たちがひまわりのような明るい笑顔で駄菓子をニコニコ選ぶ姿を見るのが、何よりの喜びだそうだ。
最近のニュースは虐待・いじめ・貧困など、子供たちの苦しんでいる姿が浮かぶものが多い。そんな時代だからこそ、子供たちの楽しみのひとつである『駄菓子』の文化を次の世代につなげていきたい。その流れを軽減税率という一時の変化で無くすのは、あまりにもったいない。
子供のための文化を守ることは、未来への贈り物である。