トラブルがないストーリーは難物
2019年7月28日 自宅
「ストーリーが大事だ」
ネットを周回しているとよく見かける。最近のセールス系の記事ではもはや常連だ。商品の売り方に工夫がいる時代だというのが現れている。見かけるたびに、いつも疑問が浮かぶ。「ストーリーが共感されなければ、逆に売上が落ちませんか?」と。
「感動で売れ」
「コト消費」
「ブランド化」
ストーリーで共感され購入してもらう方法を紹介する情報が、ネット上でも書店でも頻繁に宣伝されている。新しそうに聞こえるが、別に珍しい方法じゃない。むしろ、昔からの定番だ。ブランド物と言われている商品は、すべてストーリーがある。
最近、物が売れにくい理由は大きく分けて2つだ。多くの日本人の収入が減ったこと、生活必需品が揃っていることだ。生活を維持する出費を除いた、自由に使えるお金が減った。そして、生活必需品がほとんどの家庭で揃っている。おまけに、低価格で楽しめる娯楽が増えた。これで消費が伸びるはずもない。
生活必需品以外は、悪く言えば『必要のないもの』だ。高性能の家電も、最新のスマホも無くても困らない。よっぽど心に響かないかなければ『必要のないもの』にお金を払わわない。だから、「ストーリーを語れ!」となる。
だが、ほとんどの戦略は失敗する。
なぜか?
販売者と購入者の動機が違うからだ。
「これがほしい」と思うまでは、どれほど販売者にとって素晴らしい商品でも、購入者にとってはどうでもいいものだ。ストーリーだって聞きたくもない。現代は忙しい人が多いので興味のない話に付き合う余裕もあまりない。つまり、商品に興味を持ってもらうためにはストーリーが面白くないと話にならない。
ストーリーの面白さは”登場人物”と”トラブルからの逆転”だ。ピンチからの逆転劇に感動する。恋愛だろうと、ホラーだろうと、この展開は組み込まれている。
ここでも販売者と購入者の感覚がずれる。
販売者にとっては、商品に関わる人も出来事も思い入れがある。依頼された仕事で直接の関係がなかったとしても、”自分の宣伝した商品”という感情がある。だが、購入者にとっては自分と関わりのない空白の存在だ。この差がストーリーの面白さを読み間違える。販売者にとっては心躍るストーリーが、購入者にとっては眠気を誘う言葉の集まりになる。
トラブルなどのギャップがなくても、面白い物語を描ける人もいる。しかし、その難易度はとてつもなく高い。トラブル込みの物語が3キロマラソンとするならば、起伏のないストーリーはフルマラソンの大変さだ。物語を作ることに熟練した人にしか出来ない所業だ。
商品が売れにくい現状は、これからも変わらないだろう。むしろ、シェアサービスが増加中の今、もっと状況が厳しくなる可能性もある。ストーリー商法は悪い戦略ではない。けれども、一歩間違うと常連さんを失うハメになる。公開する前に、「これは本当に面白いのだろうか?」と確認したい。できれば、商品をまったく知らない人にも読んでもらうとリスクが減る。知らない人が読んで「意味がまったくわからない」文章が面白い文章である可能性はテイッシュペーパーよりも薄い。
驚きのない文章は、わさびのないサシミだ。
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