書籍『孤篷のひと』に変化を学ぶ
2019年10月31日 駅ナカ
駅をぶらぶらしている。手元には200円引きのクーポン券がある。一部店舗で、今日まで使える。使わずに1日が過ぎてもいい。割引をエサに購入をあおる罠に引っかかるつもりはない。ただ、欲しいものが安く買えればラッキーだな。軽い気持ちでフラフラしてたら、1軒の店が目に入った。クーポン券を確認する。対象店舗だ。これは行くしかない。『どんな出会いがあるかな』、ワクワクしながら店に入った。
書店で使えると知った瞬間に、購入は避けられない未来になった。
棚をザっと眺める。この店舗は大きくはない。広めのワンルームほどの広さしかない。だが、置いてある本にこだわりがみえる。『今月の一押し!』などの紹介文も熱意を感じる。読んだ人にしか書けない文章が並んでいる。そのうちの1冊に目が吸い寄せられた。本を手に取り、本文を3ページほど読む。もう一度、手書きの紹介文を読む。うん、買いだ。軽い足取りでレジに向かった。
家に帰るまで、とても待てない。帰りの電車で本を開く。この書籍『孤篷のひと』は茶人、小堀遠州氏の語りで話がすすむ歴史小説だ。高校時代に茶道部だったのはお菓子目当て、そんな私の茶道の知識は浅い。最近、禅をきっかけに勉強を始めたが知らないことばかりだ。小堀遠州氏の名前もはじめて知った。
前知識はほとんどない。それでも、この小説は面白い。茶道の世界が舞台だが、描かれているのはどの世代も悩む事柄だからだ。
時代の変化に合わせる。
この言葉は、言うのは簡単だが行うのは難しい。書籍『孤篷のひと』では、戦国時代の代表的な茶人である千利休の教えを、どう戦のなくなった江戸時代に適応させるか。その苦闘が鮮やかに描かれていた。
新たな道を行く難しさ
周囲の人たちの無理解
自身の心の葛藤
ここに権力争いや、歴史の変動が加わる。こういう本を読むたびに思う。いつの時代も、人間の悩みは変わらないのだな、と。
時代に合わせるということは、これまでの自分を手放すことだ。自分が変われば、望む望まない関係なく、普段つきあう人たちが変わる。時代についていけない人たちがつぶれる姿を見るハメになる。「なんで、お前だけ助かるんだ」と恨まれることもある。元のままでいたいと願っても、時代の変化は止まらない。時代に合わせられなければ、溺れて消えるだけだ。
書籍『孤篷のひと』の語り手である小堀遠州氏は穏やかな人として描かれている。対比で出される千利休氏の苛烈さと鏡合わせだ。けれども、意志の強さはどちらも強い。まるで、時代に合わせて表への出し方を変えるだけだ。そう、訴えているようだった。
ちょいと暇つぶし、なんて気分で散歩しただけなのに。めったにお目にかからない良い本に出会えた。しかも200円も安く買えた。距離があるので頻繁には来れないが、あの書店は覚えておこう。これから時代がどれだけ変化しても、私の本好きは死ぬまで変わらないのだから。
時代の変化に合わせる。
それは、
手放すものと残すものを選ぶことだ。
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