流行ノセの本なんて大嫌いだ
2020年2月27日 自宅
やっと。
やっと、見つけた。
書店の一角が輝いてみえた。
読解力クイズ【よむトレ】の解説小説、そのための調べものでドッタンバッタンしていた。調べものが捗らないので、ずっと読もうと思っていた本に手を出す。試験前の現実逃避のようなものだ。
書籍『日本刀』
この本を手に入れるために、何件の書店を回ったことか。
売切れ、売切れ、売切れ。
幼稚園の頃から歴史上の人物が大好きだった。調理師の父の影響で、身近で刃物を目にする機会が多かった。刃の空間を裂くようなギラリとした輝きに魅せられていた。『刀剣乱舞』というゲームにハマったきっかけも、歴史と刀が好きだからだ。そんな私にとって、刀本が売り切れになるほど人気なのは嬉しい。
だが、自分が読めないのは問題でしかない。
岩波新書さんのTwitterアカウントを常にチェックし、増版のたびに書店を覗いたがなかった。その本を手に入れたのは、法律の勉強会の帰りである。ふら~と寄った近所の書店にしれっといた。これほど近くに宝物があったなんて。不覚なんて言葉では収まりつかない。自分をぶん殴りたくなった、こぶしで。
手に入ったから、ノー問題だ。
自分のスットコぶりには目をつぶり、待望の本が手に入った喜びをかみしめた。近所の書店の訪問回数を増やそう。教訓を身に刻んで、すぐに読もうとスタスタと早歩きで帰った。だが、すぐには読めなかった。いつものように高熱を出して倒れた。数日後、熱がやっと下がったと思えば、読解力クイズ【よむトレ】の投稿予定日が迫っている。いっそ、再延期をなんて考えた。さすがに、欲望のままに走りすぎだと堪えた。結局、耐え切れなかったが。
「刀本はいくらでもあるのに、なぜ執着するのか?」
腹立たしくなる刀本が多かったからだ。『刀剣乱舞』の流行は素晴らしい結果を生んだ。何年も売れ行きが悪い、というより消滅寸前だった刀本がガンガン売れた。そこまでは良かった。そこからが良くなかった。内容がひどすぎる本がわんこそばのノリで書店に投入された。
漢字間違い、まだいい。
年号間違い、良くないがいい。
でたらめが書いてある、ちょっと待てゴラ。
歴史というのは、名探偵コナンのように『真実はひとつ』ではない。国宝に指定されているような刀でも、現代にたどり着くまでに歩んだ道はあいまいだったりする。江戸時代、盛んに刀について研究されたが完璧ではない。諸説あり、いろんな説があるのが基本だ。
そ、れ、な、の、に。
ひとつの説を事実のように書いたり、名前が似ている別の刀の説が書いてあったり、創作としか思えない説が書いてあったりする。
ふざけているのか?
活字中毒の私が、壁に全力で振りかぶりたくなる。そんな本が数えたくもないほど、たくさん出版された。
流行ノセだけの本なんて大嫌いだ。
本への冒涜である。
この状況は1年で改善された。我慢がならなかった同士が、オススメ刀本の情報を流しだした。私もこっそり協力した。合言葉は『刀剣乱舞開始前の本は買うな』である。もちろん、一部の内容がしっかりとした新刊は個別で紹介した。怒りをかきたてる本は売れなくなった。今では、Amazonの販売ページに酷評コメントと共に表示されているだけだ。
中身がスカスカでウソにまみれた本と書籍『日本刀』は比べるのもおこがましい。だいたい、発売されたのが1939年である。『刀剣乱舞』どころか、インターネットもない昭和初期である。使われている言葉は旧仮名づかいである。本好きでも逃げ出す人が多数出るほど、年季の入った一品である。
それほど渋みのきいた本が売り切け続出である。
なんて、いい時代なんだ。
確かに、売れるべき本である。
購入前、パラッとチラ読みした。
とにかく、説明が丁寧かつ細かい。この本を書くために、どれほど資料が必要だったのか。参考資料のページの分厚さが答えである。この参考資料の情報自体が輝かしい宝である。現代より前の資料を国会図書館などで探すとき、この参考資料が刀の世界を巡るための地図代わりだ。この本を復刻してくれた岩波新書の方々には、頭が地面にめり込むほど感謝することしかできない。ありがとう、まっことありがとう。
小説の資料が集まらない。
そんな厳しい現実を忘れるため、私は書籍『日本刀』のページを開く。
わかっている。
逃げ続ければ、現実にバッサリとぶった切られる。
読み終われば戻ってくる、許してほしい。
~2時間後~
面白かった。とても、充実したひと時だった。資料が思うように集まらないイライラが、圧し切られて霞のように消え去った。これで、また小説の資料集めにガッツリと取り組めそうだ。
現実逃避の読書は、どうして格別に楽しいのか?
どれほど資料を集めても、答えが出てこない問いである。
悪い評判は
凄まじい早さで広がる。
愛好家を怒らせた時の拡散スピードは
リニア並みである。
しかも、一両ではない。
e-hon
Amazon(電子書籍版は現代仮名づかい)
自己紹介でもある記事
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