変わらないものは安心する
2019年6月20日
やっと熱が下がってきた。これなら明日の歯科には行けそうだ。ドタキャンはできる限りしたくない。けれども、高熱で歯の治療はできない。貧血で治療中断になったこともある。こんな状態なので通う歯医者はいつも同じだ。今、住んでいる場所に移ってから10年以上も同じところでお世話になっている。歯の神経を麻酔無しで抜く、なんて目にあったことがある。人生でもTOP3に入る痛さだった。だからこそ、一度みつけたいい歯医者からは絶対に離れない。寝たきりから回復して8年ぶりに訪れた時、変わらぬ医師の顔にどれほどホッとしたか。「歯の磨き方が甘い」と叱られる日々だが、この地に住む限り離れる気はない。
変わらないものは、心に安定をもたらしてくれる。すべて変わらないのは退屈と堕落の元だが、変わるものばかりだと精神が不安定になる。両方あってこそバランスがいい。
父が調理師で転職が多く、何度も転校した。両親の離婚後、遠く離れた親に会うために長期の休みの度に県をまたいだ。高校時代は全国大会で他県に向かった。成人後は営業で他県に出張した。おかげで旅行準備に慣れている。周りがカートな中、私だけバックパックだったりする。引っ越しも多かったので荷物も少なめ、しかも7割は本だ。
私は根無し草だ。引っ越しばかりで実家と呼べるような場所がない。10年以上住んだ場所は、今の住所がはじめてだ。多くのトラブルで親戚との縁はほとんどない。唯一、交流していた叔父も去年亡くなった。現状、つながりのある血縁は父だけだ。ろくな思い出がないので、寂しさよりも爽快感が強い。
他人からは哀れな目で見られることもあるが、根無し草の利点は多い。一番の利点は厄介事が来ないことだ。借金の申込みも、葬式での相続修羅場も、両親の悪口を聞くこともない。見合いの話を持ち込まれることもない。平穏はなんて有り難いものだろう。私にとっての親戚は『血縁と書いて厄介と読む』、この感情は幼稚園の頃から変わっていない。そんな人ばかりじゃないと知ってはいるが、関係を修復しようとは思えない。非難されても仕方ない親だとわかっているが、年齢一桁の子供を囲んで、その親への悪意を振りまく人たちと関わりたくない。
人生に安定もなく、親戚との縁も紙よりも薄い。だからだろう、変わらないものへの執着が人一倍強い。自然、本、幼稚園の頃に両親と通っていた定食屋さんでご飯を食べると力がスーッと抜ける。私にとっての故郷に等しい。変わらないものに触れるたび、おそらく実家に帰ったような安心感を得ているのだろう。
現代は変化が目まぐるしい。しかし、人間は足元がぐらついていても平気な存在じゃない。変化が激しければ激しいほど、安定を求める。その対象を間違えれば迎えるのは破滅だ。それを避けるためにも、自分が安心できる変わらぬものを見つけてほしい。対象はなんだっていい。絵でも、ゲームでも、電車でも、自分が落ち着くなら合格だ。変わらない土台があるからこそ、変化にも適応できる。
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