歩くリトマス試験紙の反応記録

『ありのままに、ゆったりと、みんなで』

『病院スクランブル』 第1回 衝撃

 

第1回 衝撃

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2019年2月26日 精神科

 

「先生、家族に聞いたら衝撃的なことがわかりました」

「こちらも予想通りというか、衝撃的な結果でしたよ」

同じ言葉で返されるとは、思わなかった。

 

教授と助手のような会話をしているが、T先生とお会いするのは2回目である。

T先生はベテランの精神科医だ。

 

穏やかな雰囲気の男性だが、笑顔でズバズバ言いにくいことを言う。

とても心を病んでいる人をサポートする、精神科医とは思えない。

 

きっと違うのだ。

 

私は気を配られると、元気なふりをしてしまう

 

その性格がばれているのだ。

 

はっきり言うことで

私が無理をして疲れないように振る舞っているのだ。

 

さすがベテランの精神科医である。

 

T先生にはじめてお会いしたのは

2019年の2月12日、今日は2月26日である。

だ1カ月もたっていない。

 

T先生は”大病院の精神科にはじめて通う”

私の不安を一瞬で取り除いてくれた、すばらしい先生だ。

 

はじめての診察は、予想外の連続だった。

 

薬を使わない

食事で治療する

血液検査

 

精神病の治療で聞いたことのない方法の、オンパレードだった。

思わず「内科に来たんだっけ?」と疑問を感じてしまった。

 

T先生は言った。

 

「薬を使って治そうとすると、

 症状の原因に頼らなくなっても今度は薬に頼ってしまう」

「精神病の薬は副作用が強い薬も多く、体を壊す人が少なくない」

「食事で治すなら、心も体も改善する」

 

あぁ、T先生に一生ついていこう

 

そう思わずには、いられなかった。

 

私の診断結果は解離性障害だった。

記憶喪失、二重人格、多重人格になる症状だ。

 

私には小学校、中学校の記憶が半分ない。

 

さらにT先生と話していてわかったのだが、

意識が飛ぶのも解離性障害が原因だった。

 

”死を望んでいる自分”

 

そんな人格が私の中にいるのだ。

 

だからこそ階段の上や車道の側で、

意識がなくなって怪我をしたり、死にかける。

 

体がしんどいせいだと思っていたが、違った。

心の問題だったのだ。

 

人間の心の不思議を感じた。

 

記憶がない、無意識に死の淵に立つ、

そんな厄介な問題も食事で治るらしい。

 

私の症状だとタンパク質と鉄分が不足している可能性が大だと言われた。

それを調べるための血液検査だった。

 

血液検査の結果を知る日、それが2月26日だった。

 

結果はひどいものだった。

 

「この病院が食事での治療に切り替えて、3年がたちます。

 その3年間で行った検査の中でも、めったに見ないほどひどい」

「タンパク質も鉄分も、ビタミンB群も亜鉛も足りない。

 免疫にも糖質摂取にも異常がある」

「特に鉄分はひどい。

 フェリチンという数値は最低でも50、できれば100ほしい。

 なのにあなたは5しかない」

 

私が家族に聞いた

「日々の生活でも、記憶が抜けている」

人相が変わるほど、別の人格が表に出ることがある」

なんて情報が吹っ飛ぶほど衝撃的な発言である。

 

考えてみてほしい。

 

今の日本は、どこの精神科も予約でいっぱいだ。

はじめての診察なら、電話予約で半月待ちである。

 

だが重要なのは、そこではない。

 

実は大病院の精神科を予約する前に

近くの心療クリニックに予約の電話をしたのだ。

 

なぜそこに行かなかったのか?

 

行かないのではない、行けなかったのだ。

 

「あなたはうちでは手に負えない。大きな病院に行ってください」

 

実際の言い方は遠回しで柔らかだったが、内容は同じである。

 

つまり精神科の大病院は、

心療クリニックでは対処できない

重症の精神病の人が多く通っているのだ。

 

T先生の病院は、少なくても1日100人は診察している。

通院が多いとしても、結構な患者数だ。

入院患者だっている。

 

その中でも際立ってひどい、と言われたのだ。

 

車に追突されたような衝撃だった。

 

穏やかな笑みのT先生、だがその目は笑っていなかった。

 

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