すべて書いてはいけない
2019年8月21日 自宅
『満足させてはいけない』
『ちょっと足りないぐらいがいい』
『そうすれば、また来てくれる』
商売の極意だ。「感動してもらえば、また購入してくれる」ほど甘くはない。人間の脳に強烈に刻まれるのは物足りなさだ。「もうちょっと食べたい」「あと一歩で達成できる」「もっと知りたい」、届きそうで届かないぐらいが一番心に残る。
懐石料理やフランス料理ではデザートが小さい。これも物足りなさで「また来よう」という気持ちになるのを狙っている。あくまで提供した商品やサービスが感動できるほど素晴らしい場合にのみ使える極意だ。そうでなければ、不満を抱えたまま永遠にサヨナラだ。お客さんを逃し悪評が広まる最悪のパターンである。
この物足りなさの引力は文章でも同じだ。完結した作品は、どれだけ心を打つ作品でも読者が減る。読者が最も多いタイミングは「続きが気になる」と多くの人に思わせたときだ。完結してしまえば、たとえ続編が予定されているとしても離れる人は出てくる。これは作品に満足してしまったからだ。
ベストセラーを書くような作家は物語の伏線をすべて回収しない。完結した作品であっても、読者に「謎は残っている」「続編が出るはず」と期待させる。だから、次の作品もまた多くの人に読まれる。すべての謎を明かしてしまう人は、最初の10ページで謎が全て解けてしまう推理小説のようなものだ。そんな推理小説を誰が最後まで読むだろうか。
だが、注意点がある。物足りなさすぎると人はイライラしてくる。「わからない」が多すぎると脳が拒絶反応を起こす。そうなってしまえば「もういい」、ぽーいと記憶の彼方に放り投げられる。「わかった」に少しだけ「わからない」を混ぜる。このバランスが肝要だ。
スイカにかける塩は少量だからこそ甘くなる。
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