本性を目撃したら?
2020年3月20日 自宅
「行ってきなよ」
父に言った。
私の心臓検査の付き添いではなく、パチンコを楽しんでおいでと。
それが、父の本音だとわかっていたから。
新型コロナウイルスの流行で、多くの本性が表にさらけ出された。見習いたいと頭が下がる本性もあれば、胸ぐらをつかんでガタガタしたい本性もあった。どちらが多かったかは言うまでもない。
直接、関りが無ければいい。だが、今回の騒ぎは身近な人や組織の本性もむき出しにした。心あたたまるような本性ならいい。これからも仲良く過ごすだけだ。問題は、目をそむけたくなるほど相手の本性がひどかった場合だ。
まず、相手の本性は変わらない。本人が変わろうとしても、小さくできるだけで消え去ることはない。それが本性だ。だから、対応を考えるのはコチラだ。そばにあり続けるか、離れるか。私は、自分で決めた。
うちの両親は、どちらも見本にはできない親だ。今の時代なら、両方とも毒親と呼ばれるだろう。母はアルコール中毒、父はパチンコ中毒だった。ちなみに私は活字中毒である。
私が中学生時代、父の態度は特にひどかった。パチンコで月に何十万円も失い、家にほとんど帰ってこない。当時は父子家庭で、私の一日の食事はパイナップルの缶詰1個である。後に知ったが、店を開くためのお金を500万円ほど貯めていたらしい。娘が餓死しそうだったのに。
最近、戻った記憶がある。父に天体望遠鏡を譲ってくれと言われた。その天体望遠鏡は、両親が離婚前に誕生日プレゼントで贈られたものだ。使っていないのだから、譲ってもいいだろう、と。ちなみに、譲る相手は新しくできた彼女の息子さんへだ。私は特に感じることもなく、笑顔で『いいよ』と言った。とっくに、私の感覚はおかしくなっていた。栄養失調で頭が回っていなかった可能性もあるが。
我がことながら、そこそこのエピソードである。なお、パートナーにポロッと言ってしまったことがある。「そんな父親とは縁を切れ」と激怒された。あの体験が無かったら、同意していただろう。
中学3年のとき、父のパチンコ中毒は落ち着いていた。家に帰ってくるようになり、私もご飯が1日3回、食べられるようになった。父との関係は冷戦状態だったが。
ある日、家が大きく揺れた。
阪神大震災だ。
当時は鳥取県に住んでいたが、凄まじい揺れだった。家じゅうの物が揺れ動き、いつコチラに向かって倒れてきてもおかしくない状況だった。そのとき、父がふとんを被りながら覆いかぶさってきた。
家具の落下から、身を挺してかばってくれた。
このとき、私は理解した。
父なりに、私を大事に思っているんだな。
ただ、自分の欲に勝てないだけなんだ。
娘の異常に気づかず、
パチンコの楽しみや自分の店を持つ夢を優先する。
危ない場面で
自分の命よりも、娘の命を優先する。
どちらも、父の本性なんだ。
つまり、ただの困ったチャンである。
この件があってから、父との仲は改善した。今ではお互いの悩みを相談しあう。傍目には、何の問題もなかった親子だ。だが、父が困ったチャンであることには変わりがない。
娘の心臓検査に着いていくと自分から言った。それなのに、パチンコで運が回ってきたから遊び続けたい。そういう、欲に弱いところは何も変わっていない。どれほど隠そうとしても、コチラにはお見通しである。弱り切っていたので、こちらから『行っておいで』と助け舟を出した。
むしろ、感動した。
自分の欲を優先していいか悩むなんて、成長したじゃないか。昔の父なら、迷うことなくパチンコを選んでいた。人は何歳でも変わることができるんだ。生暖かい目で父を眺めた。
一人でサクッと心臓の検査に向かった。
検査結果は異常が無かった。
よかった、よかった。
軽い足取りで帰宅したら、父が待っていた。
私の好物を用意して。
こういうところが憎めない点である。
プロの調理師がさばいた刺身は美味しかった。
相手の本性がひどいとき、まず行うのは、ありのままに事実を受け入れることだ。よくポジティブに受け入れようとする人がいるが、それはどこかで破綻する。なぜならば、自分をごまかしても事実は1ミリも動かない。変えることもできない。負担が積み重なって、壊れるだけだ。コチラにできることは、ありのままにみたうえで選ぶことだ。受け入れるか、拒絶するか。
『ひどい本性があるとわかっても、共にいられるか?』
なお、相手の「もうしない」はまったく信用できない。思わずやってしまうから、本性というのだ。そして、ひどい本性がすべてだというのも違う。人の心は複雑だ。輝かしい部分もあれば、薄暗いところもある。私の父のように。
仏と鬼が共存する。
それが人間だ。
後日談がある。この件がパートナーにバレた。「一発、殴りにいく」とプンプン怒って、なだめるのが大変だった。気持ちはとても嬉しいが、とても疲れた。困ったチャンは二次被害も引き起こす。ヤレヤレダ。
本性は変わらない。
どれほど、変えたいと願っても。
ただ、受け入れるのみだ。
自分の本性も、相手の本性も。
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